はじめに
こんにちわ、爪川です
アメリカは訴訟が多い故に『訴訟大国』と言われる時もありますが、スポーツに関した訴訟も勿論起きています
その中の1つがAdrian Arrington氏が起こした脳振盪に関しての訴訟です
今回の記事ではその訴訟と和解内容(Arrington和解)を見ていきたいと思います
脳振盪と訴訟:アメリカのArrington和解
Arrington和解(Arrington Settlement)とは?
2011年、イースタンイリノイ大学アメリカンフットボール部に所属していたAdrian Arrington氏がNCAA(全米大学体育協会)に対して集団訴訟を起こしました
Arrington氏はNCAAや大学スポーツの管理責任者は今まで脳振盪に対して適切に対応しておらず、脳振盪による健康への長期的な悪影響を意図的に隠していたと主張しました
NCAAはArrington氏の主張に反論し、最終的にはNCAAとArrington氏の間で和解契約書が結ばれました
この和解契約書やその内容のことを”The Arrington Settlement(Arrington和解)”と呼んでいます(と個人的に理解しています)
このArrington和解は2019年11月18日に有効とされ、その日から6ヶ月間はArrington和解の内容を施行する為の準備期間とされました。
Arrington和解の内容
ここでは詳細は省きますが大まかなArrington和解の内容は以下になります
・NCAAが 脳振盪の治療や研究などについて資金を提供する
・NCAAは加盟大学に対して脳振盪に関しての報告体制と教育体制の確立を義務とする
・NCAAに対して加盟大学は「脳振盪が発生した際の報告」、「その脳振盪がどのように解決したかの報告」、「脳振盪対応に疑念がある場合に誰でもNCAAに報告出来るような体制の構築」が必要になり、NCAAは加盟大学に対して脳振盪教育に関しての資料など提供をしなければならない
・加盟大学はNCAAが認可した脳振盪教育プログラムをシーズン前に選手、指導者、アスレティックトレーナーに提供しなければならない
・NCAAは脳振盪対応と競技復帰までの方針と実施手順を変更し、加盟大学は以下の5つの競技復帰までのガイドラインを施行しなければならない
- 全ての選手は参加する部活のシーズン前にベースラインチェックを受けなければならない
- 全ての選手において脳振盪と診断された同日の練習や試合に戻ることを禁止する
- 全ての選手は脳振盪と診断された場合、医師の許可がなければ練習や試合には復帰してはならない
- NCAA加盟大学は全てのコンタクトスポーツの試合で脳振盪の診断・治療・対応の訓練を受けた医療従事者が帯同することを保証する
- NCAA加盟大学は全てのコンタクトスポーツの練習で脳振盪の診断・治療・対応の訓練を受けた医療従事者が対応可能なことを保証する
Arrington和解はどの程度遵守されているのか?
Arrington和解によって『NCAAに加盟している大学は上記5つのガイドラインはしっかり守りなさい』と言う状況になりました
ただこのガイドラインは法律や法令ではないので、遵守していなくとも罰則などはありません
罰則があるから遵守するわけでもないと思いますが、上の写真に写っている論文は『どの程度のNCAA加盟大学はガイドラインを守っているか』を実際に調査したものとなります
この調査はNCAAに加盟している全ての大学のヘッドアスレティックトレーナー(現場メディカル部門のトップ)にアンケート送って実施したものです
回答率は20%を少し超えるぐらいではありますが、『概ねNCAA加盟大学では5つのガイドラインは遵守されている』と結論づけてはいます
ただし、ガイドライン1の『シーズン前のベースラインチェックの実施』の遵守率は44.8%、ガイドライン5の『コンタクトスポーツの練習時への人員の配置』は73.3%という結果もありました
終わりに
今回はスポーツと脳振盪に関しての訴訟であるArrington和解について見てみました
2011年の訴訟なので、ちょうど私がアメリカでアスレティックトレーナーとして働き始めた位の時の話です
この訴訟は上記のような和解という事になりましたが、この訴訟が終わる前からアメリカの大学レベルではガイドラインにあるようなシーズン前のベースラインチェックは行なっていました(少なくとも私が働いていた場所では)
ですのでガイドライン自体は目新しい物という印象は受けませんが、少なくともNCAAという中央団体が何らかの指針を出すと加盟大学や他の団体もそれを参考に出来るのかなと思います
参照資料
2 The Arrington Settlement and Its Implications: What It Says and What It Doesn’t
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