外傷性脳症症候群(Traumatic Encephalopathy Syndrome):プロ格闘家を対象とした研究結果

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こんにちわ、爪川です

今回の記事では外傷性脳症症候群(Traumatic Encephalopathy Syndrome)という新しい診断基準をプロ格闘家を対象にして実施した研究を見ていこうと思います

外傷性脳症症候群(Traumatic Encephalopathy Syndrome):プロ格闘家を対象とした研究結果

慢性外傷性脳症(Chronic Traumatic Encephalopathy)と外傷性脳症症候群(Traumatic Encephalopathy Syndrome)

参照資料より

慢性外傷性脳症(CTE:Chronic Traumatic Encephalopathy)とは神経の変性疾患です

ですがCTEはまだわからないことも多く、現状ではその診断も死亡後に脳を解剖することでしか確定出来ません

その様な状況のなかで、CTEの症状の特徴を基に*外傷性脳症症候群(TES:Traumatic Encephalopathy Syndrome)という診断基準が発表されました

(*このTESの日本語訳は私によるものなので、学術的に正しいかはわかりません。日本語での正確な訳はまだ発表されていないと理解しています)

ですがTESの診断基準は主に引退後のプロアメリカンフットボール選手の状態に基づいて形成され、またその診断基準の妥当性は実証されていません

そして今回の研究では現役と引退後のプロ格闘家(ボクサーとMMAファイター)を対象にTESの診断基準を当てはめ、どの程度の被験者がTESの診断基準に当てはまるのか、そして被験者の脳機能やMRIでの脳の状態はどうなのかを探っています

外傷性脳症症候群(TES)の診断基準

外傷性脳症症候群(TES)の主な診断基準は以下の4つです

  1. 頭部への繰り返しの衝撃に非常に多く晒されていること
    • substantial exposure to RHI (repetitive head impacts)
  2. 認知機能の障害や神経行動学的の制御不全、もしくはその両方があること
    • impairment in cognitive function and/or neurobehavioral dysregulation
  3. 進行性であること
    • a progressive course
  4. 現在の症状に対して他に説明が付く病態などがないこと
    • the absence of any other process that could account for the symptoms

プロ格闘家を対象とした研究

概要

  • 被験者:176名のプロ格闘家(ボクサー:110名、MMAファイター66名)
    • 年齢:35歳以上(年齢を高くすることで頭部に繰り返しの衝撃を受けていると想定されるため)
  • 研究方法:TESの診断基準を被験者に当てはめ、脳のMRI撮影、血液検査、認知機能(記憶や実行機能)のテストを実施
    • プロとして10戦以上試合を行った場合にTESの診断基準1を満たすとした

結果

  • TESとの診断:72/176名(41%)がTESの4つの診断基準を満たしていた
    • 72名中、ボクサーが60名、MMRファイターが12名
    • 現役選手でTESの診断基準を満たした選手は8名

TESの診断基準を満たした選手とそうでなかった選手の特徴の違い
  • TESの診断基準を満たした選手はそうでなかった選手と比較し、、、
  • ボクサーである(TESと診断された選手でボクサーは83%)
  • 年齢が高い(平均47歳、TESでない選手は平均43歳)
  • 試合数が多い(中央値が33.5試合、TESでない選手は16試合)
  • プロとしての期間が長い(約13年、TESでない選手は約9年)
  • 競技を始めた年齢が若い(平均14歳、TESでない選手は19歳)
  • ノックアウトされた回数が多い(中央値で3回、TESでない選手は1.5回)
  • 部分的に脳容積が低下している(視床、海馬、脳梁後部、白質、全体と皮質下灰白質)
  • 側脳室の容積が増加している

その他
  • TESの診断基準を満たした選手では、認知機能テストの中で実行機能のみスコアが低かったグループと、記憶と実行機能の両方のスコアが低かったグループの2つに分けられた
    • 記憶と実行機能の両方でスコアが低かったグループは、そうでないグループと比較し、年齢が高く、試合数とノックアウト数が多く、脳容積の低下も大きかった

これらの結果に加えて、著者たちはこの研究結果を基に「頭部への繰り返しの衝撃に非常に多く晒されている」というTESの診断基準1の目安として、プロと試合数を「25試合」という数字を算出しています

この研究結果を踏まえて、、、

外傷性脳症症候群(TES)という1つの診断基準が出来たことから、この分野に関してはさらに研究が加速するのではないかと思います

特に「頭部への繰り返しの衝撃」という面において、この著者たちがボクサーであれば「プロとして25試合以上」という具体的な数値を示したのは、その点では非常にな稀なことかと思います

こう言った具体的な数値は他の競技ではポジションやプレイ時間が違う為に算出は難しいかもしれませんが、それらが研究されて発表される日も近いのかなと思います

まとめ

今回のまとめです!

  • 外傷性脳症症候群(TES)は慢性外傷性脳症(CTE)の症状の特徴を基にした診断基準
  • まだその診断基準の妥当性は実証されておらず、今回の研究では現役と引退後のプロ格闘家を対象として調査
  • TESの診断基準をプロ格闘家に当てはめると、約41%がTESの診断基準を満たした
  • 診断基準を満たしたグループでは脳容積の低下なども確認された

参照資料

Ritter A, Shan G, Montes A, Randall R, Bernick C. Traumatic encephalopathy syndrome: application of new criteria to a cohort exposed to repetitive head impacts. Br J Sports Med. 2022 Dec 14:bjsports-2022-105819. doi: 10.1136/bjsports-2022-105819. Epub ahead of print. PMID: 36517216.

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