頭部外傷と認知障害:何回が”too many”?

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こんにちわ、爪川です😄

今回の記事はスポーツ関連脳振盪と少し違いますが、イギリスで実施された頭部外傷と認知障害に関しての研究を見ていきます

この研究の目的は

  1. 軽度頭部外傷や中〜重症頭部外傷によって長期的に最も影響を受ける認知機能の領域はどれか?
  2. 軽度頭部外傷の受傷数が増えれば増えるほど認知機能への影響はあるか?

頭部外傷と認知障害:何回が”too many”?

参照資料より

頭部外傷とは頭部に外部からの力が加わることで損傷が起きる怪我です

頭部外傷は脳の認知機能に影響を与えると考えられ、認知症のリスクを上げるとも報告されています

この頭部外傷は重症度によって、軽症、中等症、重症に分けられています

軽症の場合は軽度頭部外傷とも呼ばれますが、脳振盪はこの分類に入ります

軽度頭部外傷と脳振盪を同じ意味で扱っている場合もありますが、この研究ではそうではないので、まずは研究内の言葉の定義を確認してから概要を見ていきます

研究内での頭部外傷の定義

この研究では頭部外傷の重症度によって、被験者を4つの群に分けています

その4つの群は以下となります

  1. 頭部外傷を受傷したことがない群
  2. Non-TBI Head Strikeを受傷したことがある群
  3. 軽度頭部外傷を受傷したことがある群
  4. 中〜重症の頭部外傷を受傷したことがある群
各群の定義
  1. 頭部外傷を受傷したことがない群
    • これは文字のまま「頭部外傷を受傷したことがない被験者」のグループです
  2. Non-TBI Head Strikeを受傷したことがある群
    • Non-TBI Head Strikeでは「頭部への怪我を受傷したけれども、意識消失、混乱、呆然とした状態」にはなっていないグループです
  3. 軽度頭部外傷を受傷したことがある群
    • 「頭部への怪我を受傷し、30分未満の意識消失、混乱、呆然となる状態のいずれかがあった」場合のグループです
  4. 中〜重症の頭部外傷を受傷したことがある群
    • 「頭部への怪我を受傷し、30分以上の意識消失があった」グループです

では研究内容を見ていきます

研究概要

  • 被験者は50-90歳の”The PROTECT study”という研究に参加している15,764名
  • 被験者の平均年齢は62.7歳
  • この被験者に対して頭部外傷の有無、受傷時期、回数、重症度の聞き取り調査や認知機能の状態の検査などを行う(ベースライン検査)
  • ベースライン検査後、4年間に渡り1年に1回のフォローアップ検査を行う
  • 頭部外傷の有無とその重症度によって以下の4つの群に被験者を分ける
    • 頭部外傷を受傷したことがない群
    • Non-TBI Head Strikeを受傷したことがある群
    • 軽度頭部外傷を受傷したことがある群
    • 中〜重症の頭部外傷を受傷したことがある群
  • 認知機能の状態は以下の領域の機能を検査する
    • ワーキングメモリー(working memory)
    • エピソード記憶(episodic memory)
    • プロセススピード/反応速度(processing speed/reaction time)
    • 注意(attention)
    • 遂行機能(executive)
  • 上記以外には性別、最終学歴、喫煙歴、精神疾患歴、血管疾患のリスクを上げる既往(高血圧、脳卒中、冠動脈疾患、糖尿防、高コレステロール)の調査をする

結果

  • 頭部外傷の有無と重症度の比率
    • 頭部外傷なし:32.9%(5,818名)
    • Non-TBI Head Strike:23.5%(3,711名)
    • 軽度頭部外傷:36.3%(5,725名)
    • 中〜重症の頭部外傷:3.2%(510名)
  • 頭部外傷の回数(平均)と最後に受傷してからの経過年数(平均)
    • 頭部外傷なし:NA
    • Non-TBI Head Strike:2.7±2.4回、34.1±22.7年
    • 軽度頭部外傷:3.8±3.5回、35.9±20.8年
    • 中〜重症の頭部外傷:4.7±4.7回、36.5±20.7年
  • 認知機能検査の結果:ベースライン時
    • 中〜重症の頭部外傷歴が1回でもある場合、頭部外傷歴がない被験者よりも「注意」「遂行機能」「プロセススピード」のスコアが低かった
    • 軽度頭部外傷歴が1回でもある場合、頭部外傷歴がない被験者よりも「注意」のスコアが低かった
    • Non-TBI Head Strike歴か軽度頭部外傷歴がある場合、頭部外傷歴がない被験者よりも「エピソード記憶」のスコアが高かった
    • 中〜重症の頭部外傷歴がある場合、軽度頭部外傷歴がある被験者と比較し「注意」「エピソード記憶」のスコアが低かった
  • 認知機能検査の結果、軽度頭部外傷群に限った特徴:ベースライン時
    • 軽度頭部外傷の受傷数が増えれば増えるほど、頭部外傷歴がない被験者と比較して「注意」「遂行機能」「プロセススピード」「ワーキングメモリー」のスコアの悪化と相関していた
    • 軽度頭部外傷の受傷数が3回の場合、頭部外傷歴がない被験者と比較して「注意」「遂行機能」のスコアの悪化が顕在化した
    • 軽度頭部外傷の受傷数が4回以上の場合、頭部外傷歴がない被験者と比較して「注意」「プロセススピード」「ワーキングメモリー」のスコアが低かった
    • 軽度頭部外傷歴が1回の場合、頭部外傷歴がない被験者と比較して「ワーキングメモリー」「エピソード記憶」のスコアが高かった
  • フォローアップ期間中(5年)においての頭部外傷が認知機能に及ぼす影響
    • フォローアップ期間では頭部外傷の重症度と認知機能検査の結果の推移には関係が見られない
    • フォローアップ期間では軽度頭部外傷歴と認知機能検査の結果の推移には関係が見られない

その他

今回の研究は被験者は15,764名という大きな研究ですが、いくつかの注意事項があるのでそれを列挙しておきます

  • 被験者の97.3%がヨーロッパ系白人
  • 被験者の75.5%が女性
  • フォローアップ期間の全ての検査を受けたのは45.3%(7,148名)
  • 頭部外傷の受傷起点には明記がなく、スポーツ、交通事故、転倒など全てが含まれると思われる

まとめ

今回のまとめです!

  • 軽度頭部外傷の受傷数が3回以上の場合、頭部外傷歴が無いグループと比較して認知機能のスコアの差が顕在化してくる
  • 頭部外傷歴がある場合、認知機能の中でも「注意」「遂行機能」「プロセススピード」により影響を与えると考えられる

参照資料

Lennon MJ, Brooker H, Creese B, Thayanandan T, Rigney G, Aarsland D, Hampshire A, Ballard C, Corbett A, Raymont V. Lifetime Traumatic Brain Injury and Cognitive Domain Deficits in Late Life: The PROTECT-TBI Cohort Study. J Neurotrauma. 2023 Jan 27. doi: 10.1089/neu.2022.0360. Epub ahead of print. PMID: 36716779.

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