はじめに
こんにちわ、爪川です
今日の記事では最近目に留まった2つのニュースと、それに関連する論文について書いてみたいと思います
最近目に留まった2つのニュースは↓
“元NZ代表、41歳のヘイマン氏が若年性認知症を公表”
(もうこの記事は削除されてしまっているようです、、、、2023/1/26更新)
“Concussion forces Wallabies’ Haylett-Petty to retire”
1つ目のニュースは元ラグビーニュージーランド代表の選手が41歳にして若年性認知症を発症したことに関するニュースです
ラグビーはコリジョンスポーツ(体同士の激しい衝突を伴うスポーツ)なので、頭部への衝撃も強く、その回数も多くなります
現役時代に負ったそのような衝撃が若くしての認知症発症に関係があるのではないかと考えらています
2つ目は英語の記事ですが、現役のラグビーオーストラリア代表選手が脳振盪からの回復が難しいことを理由に現役引退を表明したことを伝えたニュースです
この選手は日本の豊田自動織機ラグビー部(プロチーム)にも所属したことがある選手です
2020年10月の試合で頭部外傷を負ってからなかなか回復がうまくいかずに今回の決断に至ったようです
年齢は32歳なので、怪我の影響がなければもう少し現役生活は長かったかもしれません
どちらのニュースもラグビー選手x頭部外傷(脳振盪)に関してのニュースです
ちょうどこのニュースが出たときに読んでいた文献に現役のラグビー選手の脳の変化について研究した論文があったので、ここで合わせてご紹介したいと思います
ラグビー選手の脳の白質の異常:イギリスの研究を参考に
骨折や肉離れと違い、脳震盪ではCTやMRIと言った画像検査では以前は異常が見つけられませんでした
ただ、最近では技術や研究の進歩により、頭部への衝撃による脳の白質(White Matter)という部分の損傷が脳振盪の1つの原因なのではないかと考えられています
そしてこの研究ではイギリスのエリートレベルの現役ラグビー選手を対象とした、その選手たちの脳の状態を1年間隔でチェックしたものになります
この研究では現役のラグビー選手の中でも、脳振盪を受傷した選手の脳とそれから約1年後の脳の状態や、脳振盪を受傷しなかった選手、また他の競技の選手の脳とを比較しています
多くの研究では頭部への衝撃や脳震盪によって脳の白質(特に脳梁や皮質脊髄路など)の異常が見つかっていますが、現役のラグビー選手を対象とした研究はあまり見ないので非常に興味深い研究です
この研究では被験者のラグビー選手が44名(男性41名、女性3名)、非ラグビー選手が63名で行われました
脳の白質の状態を見る検査や、小さな出血をチェックする検査、脳の機能をチェックする神経心理学検査なども行われました
研究結果としてはいろいろな発見や差が出たのですが、個人的に大きな発見かなと思ったのが、ラグビー選手の白質の容量(volume)の変化です
1年間で半数のラグビー選手は白質(特に外側後頭皮質と中心後回)の容量が減少していることを示唆する発見がありました(ただし25%の非ラグビー選手も白質の容量の減少は見られました)
白質の容量は40歳までは増加すると考えられています
今回の被験者のラグビー選手は全て平均年齢25歳なので、年齢による白質の容量低下とは考えにくいです
ただ、白質の容量に変化がないラグビー選手もおり、逆に非ラグビー選手でも白質の容量の減少が見られた選手もいます
被験者の数も少ないのでこの研究だけでは結論的な事はなんとも言えませんが、もし今後に白質の容量と脳振盪の関係や脳振盪の後遺症との関係なども明らかになれば、白質の状態を見て選手の脳の状態をチェックするなんてこともあるかもしれません
最後に
今回は最近目に留まったラグビーと頭部外傷・脳振盪に関してのニュースと、イギリスでのラグビー選手と脳の白質の変化について書いてみました
ラグビーだけではないですがスポーツ選手の健康を守る(Players’ Welfare)というのはここ数年で非常に注力されている箇所です
脳振盪は一見他の怪我よりも症状が見えにくく、「大丈夫だろう」と過信されやすい怪我かもしれません
ただ、適切な診断やリハビリを行わないとその後の人生に影響を及ぼす可能性があります
今回のような研究で脳振盪と脳の状態の関係性がより明確になっていけば、今よりもさらに安全にスポーツ選手がプレイ出来るようになるかと思います
本日も最後までお読み頂きましてありがとうございました
参照文献
“元NZ代表、41歳のヘイマン氏が若年性認知症を公表”
“Concussion forces Wallabies’ Haylett-Petty to retire”
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