はじめに
今回の記事は脳振盪に特化したものではありませんが、多少なりとも関わってくる緊急時対応計画(Emergency Action Plan)、またはEAPと呼ばれることに関してです
先日Jリーグのトライアウトに参加した選手が大きな怪我を負ったというニュースがありましたが、スポーツでは競技の種類やレベルに関わらず、突然大きな怪我や事故が起こる可能性があります
スポーツ現場のメディカルスタッフであるアスレティックトレーナーは、このような重大な怪我や事故が起きないように努めつつ、もしもそれらが起きた時にも対応できるように事前に最大限の準備をしています
その予防や準備の指針となるのが緊急時対応計画と呼ばれるものです
緊急時対応計画(Emergency Action Plan: EAP)とは
緊急時対応計画とはその名の通りに緊急時にどのように対応するのかを明記したものになります
ここでの緊急時とはその場所や団体によって変わってきますが、例えば一般企業であれば「大きな地震が起きて公共交通機関が止まった時」、学校であれば「不審者が校内に入って来た時」などです
スポーツ現場では「運動中に選手が突然意識を失った時」や「頭部や首などに重大な怪我を負った時」などが挙げられるかと思います
そしてそのような緊急時に「どのような対応をするのか」を明記しておきます
例えば先ほどのスポーツ現場の例では「アスレティックトレーナーが意識を失った選手の対応」「顧問の先生が119番通報」「学生マネージャーがAEDを取りに行く」「他の選手が職員室などに行って他の先生の助けを呼ぶ」などです
緊急時対応計画は国や団体によって多少内容は異なってきますが、緊急時対応計画に明記すべき要素をまとめた英文の記事がありましたので、ここでそれらを要約したいと思います
(記事元はKorey Stringer Instituteというアメリカにあるアスレティックトレーナー界・スポーツ医学界では非常に有名な団体のウェブサイトです。この団体はスポーツ中の熱中症予防やその対応、その他のスポーツ中の突然死予防などに関して世界トップの研究機関で、日本人スタッフも過去や現在で在籍している方がいらっしゃいます)
緊急時対応計画に明記すべき要素
1 緊急時に対応する人員
緊急時に誰がどのような役割を担うのか。例:学校の部活動の場合、顧問は119番通報、学生マネージャーはAEDを取りに行く、3年生は手分けして他の教師の助けを呼びに行く、2年生は1年生を落ち着かせる、1年生は2年生の指示に従う
2 緊急時の連絡手段
どのような方法でコミュニケーションを取るのか。スマートフォンであれば、アスレティックトレーナーや顧問の先生は常にスマホを携帯しているか、すぐ取りに行ける場所に置いておくのか。スマホの他にもラジオなどの無線があるのか。先ほどの例であれば、職員室まで他の人を呼ぶのには内線電話などがあるのか
3 緊急時の道具
AEDなどの救命道具はどこにあるのか。わかりやすい場所にあるか。どこにあるのかを緊急時対応に関わる全員が知っている状態か。AEDを取りに行って帰ってくるまで最短でどの程度の時間がかかるか。AEDなどが正常に働いているかを定期的にチェックしているか
4 緊急時の車両経路
救急車などの緊急車両はどこから入るのか(正門?裏門?など)。グラウンドの中まで救急車は入ってこれるのか。屋内だとしたらエレベーターはあるのか。119番通報から救急車到着までどの程度の時間が必要か(通報から救急車到着までの所要時間は全国平均で8.7分:総務省資料より)
5 現場の地図
現場と現場周辺の道路なども含めた地図も緊急時対応計画に記載します。緊急車両の侵入経路や、通行止めなどの不足の事態も考慮し、迂回路も見えやすいようにしておきます。また、例えとして部活動でサッカー部は校内グラウンドで活動しラグビー部は校外のグラウンドを使用する場合は、どちらの地図も用意しておきます
6 初期対応者の役割
選手や負傷者に最初に対応する人の役割の明記。1人しか初期対応者がいない場合、複数人いる場合、AEDや119番通報する順番などの明記
7 非医療系緊急時の対応計画
例えば学校の部活動中に地震や火事、不審者の侵入があった場合はどうするのか
アメリカの学校でのEAP普及率
さて、このような「緊急時にどう対応するのか」を記載した緊急時対応計画ですが、私がアメリカでアスレティックトレーナーとして働いていた頃には大学の部活動はもちろん、高校などでも一般的になって来たのかなという印象でした
ただ、日本だとプロスポーツチームは別として大学や高校の部活動ではまだなのかなと思っています
もちろん、このような緊急時の対応計画がアメリカで浸透する背景には文化的なもの(例えば訴訟文化や非常に激しい衝突を繰り返すアメリカンフットボールが一番人気のスポーツであるということ)もありますが、日本でもスポーツの重大事故は起こり得ますし、準備しておくことに越したことはありません
というわけで、アメリカで緊急時対応計画がどの程度浸透しているかを調査した研究があります
ここでの研究対象はアメリカの中学校と高校を対象です
結果から言うとアメリカの中学校と高校のうち、55-100%で緊急時対応計画が明記されています
これを多いと思うか少ないと思うかは人それぞれかなと思いますが、私個人の感覚としては「まあこんなものかな」と言う印象です
アメリカの大学レベルではさすがにスポーツ現場での緊急時対応計画がない学校はほぼ無いと思いますが、中学校や高校ではまだ浸透はしていないのかなと思います
終わりに
今回は脳振盪から少し離れ、緊急時対応計画について簡潔にまとめました
緊急時では相当トレーニングを積んでいなければ正常心でことに当たれません
ですのでそのような時でも対応できるように「誰が何をするか」などを明記し準備しておくと、最悪の状況でも準備しておいた通りに行えば良いという心の支えが出来ます
「備えあって憂なし」
アメリカでも”Hope for the best. Prepare for the worst”(最善を期待し、最悪を準備する)と言う諺があり、準備の大切さを伝えています
本日も最後までお読みいただきましてありがとうございました
コメント