はじめに
こんにちわ、爪川です
今回は「International Journal of Sports Physical Therapy」に掲載されていた、スイス脳振盪センターの理学療法士であるDr. Bizziniがまとめたエリートアイスホッケー選手に対しての脳振盪からの段階的競技復帰の具体例を見ていきたいと思います
段階的競技復帰の例:スイス脳振盪センターから
Return to Performance
まず前提としてこのDr. Bizziniによる文献ですが、著者の意図としては『エリートアイスホッケー選手に対して実施した段階的競技復帰の例を紹介する』というよりも、
『脳振盪後からリハビリを経てパフォーマンスを回復させる為の例』
という趣旨でまとめられている様に感じます
著者自身もスポーツ理学療法士やアスレティックトレーナー、コンディショニングコーチは脳振盪リハビリを通して、最終的にはReturn to Performance(パフォーマンスの回復)まで安全且つ効果的にアスリートを導くべきと述べています
この辺りに著者の熱量を感じたのでこのブログ記事でも言及しておきました
※『パフォーマンス』というのは主観・客観の両方が含まれる言葉だと思っているので測定するのが難しいと思いますが、『パフォーマンスの回復』という点ではNHL(アメリカプロアイスホッケーリーグ)選手を対象とした研究があります。脳振盪を受傷したNHL選手のその前後でのパフォーマンスを比較した研究です↓
段階的競技復帰の具体例
2016年にベルリンで行われた国際学会では段階的競技復帰を6つのステージに分けていました
そちらの詳細はこの記事をご覧ください↓
ただしこの6段階のステージ分けはガイドラインなので、Dr. Bizziniはこの6段階を踏まえつつさらに細かくステージ分けをおこなっています
具体的には以下の通りです↓
ステージ1 | 症状が悪化しない程度の日常生活動作 |
ステージ2 | 軽い有酸素運動 |
ステージ3.1 | 有酸素運動 |
ステージ3.2 | 基礎的なアイスホッケー動作 |
ステージ4.1 | ノンコンタクトでのチーム練習 |
ステージ4.2 | コントロール下のコンタクトチーム練習 |
ステージ5 | フルコンタクトでのチーム練習 |
ステージ6 | 試合復帰 |
ここからは少し細かく各ステージを見ていきます
ステージ1 症状が悪化しない程度の日常生活動作
このステージでは通常の6段階のステージと大きく変わりません
ステージ2 軽い有酸素運動
ステージ2もガイドラインと大きな変更はありませんが、
軽い有酸素運動の他にもストレッチやモビリティードリル、バランスエクササイズなども開始しています
脳振盪ではバランス能力や自律神経に関わる前庭機能が低下する場合が多く、それらのリハビリとしてこのステージでの簡単なモビリティー動作やバランスエクサイズの導入というのはメリットが大きいのでないかと思います
また、このステージでバッファロー脳振盪トレッドミルテストなどを通して運動の耐性を測る場合もありますが、この資料では有酸素運動は最大心拍数の70%以下で行うとの記載があります
バッファロー脳振盪トレッドミルテストについてはこちらの記事をご覧ください↓
ステージ3.1 有酸素運動
この辺りから通常のガイドラインとの違いが鮮明になってきます
通常のガイドラインではステージ3は『スポーツ特異動作』
つまりサッカー選手であればパスやシュート、ドリブル
野球選手であればキャッチボールやバッティングなどのスポーツ特有の動きを行っていきます
ただしこの8段階の復帰プロトコルではステージ3をステージ3.1と3.2の2つに分けています
ステージ3.1ではステージ2から始めた有酸素運動の強度を上げていきます
心拍数を指標にすると運動強度は最大心拍数の70-80%を目標にしています
ただ、このステージでは頭や首が安定した状態での有酸素運動のみを選択しています
また有酸素運動の他にもゴムバンドなどを使用したトレーニングや、
首や体幹のトレーニング、
上肢・下肢共に軽い負荷のチューブトレーニングなどを開始します
モビリティードリルやストレッチ、バランスエクササイズも引き続き行います
ステージ3.2 基礎的なアイスホッケー動作
ステージ3.2ではアイスホッケー特有の動作を行っていきます
このステージでは氷上で基礎的な個人のスキル練習や確認
また、1対1での基礎的な練習も開始しています
ただし相手や物と接触をする個人練習などは行いません
ステージ4.1 ノンコンタクトでのチーム練習
ステージ4も2つの段階に分けられています
ステージ4.1ではチーム練習に合流しますが接触を伴わないものに限ります
有酸素運動も氷上で行うものに切り替え、最大心拍数の90%程度を目標におこなっていきます
また、アジリティードリルや反射的なトレーニングも加えていって運動の強度・難易度を上げていきます
このステージからウエイトトレーニングも開始しますが、重量の目安は1 Rep Maxの80%以下でおこなっていきます
ステージ4.2 コントロール下のコンタクトチーム練習
ガイドラインではステージ4の次、ステージ5ではコンタクトを含んだチーム練習に入っていきますが、ここではステージ5の前に1クッション置いています
ステージ5では『フルコンタクト』の接触を伴う練習に入りますが、ステージ4.2ではあらかじめコントロールした状態でのコンタクト練習を行います
コンタクトをコントロールした状態とは、例えば
「人ではなくまずは物に接触していく」
「相手選手がどこから来るかわかっている状態」
「1回の練習のコンタクトの回数が決まっている」
「コンタクトの間に十分な休憩を取る」
「コンタクトの強度を弱くしている状態」
などが挙げられます
アイスホッケーという体のぶつけ合いが競技の中に含まれているスポーツの特性上、ステージ4終了後にすぐフルコンタクトの練習というよりも、より万全を期すためにコンタクト練習への復帰も段階を踏んでいます
ステージ5/6 フルコンタクト練習/試合復帰
ステージ5と6に関しては通常のガイドラインと基本的には同じ内容になります
まとめ
今回はスイス脳振盪センターの理学療法士、Dr. Bizzniがまとめた文献を見てみました
脳振盪後の『パフォーマンスの回復』というのは、安全に競技復帰が出来たエリートアスリートにとっては非常に重要な課題かと思います
また、段階的競技復帰の具体例もより現場に則した内容になっていて参考になるのではないかと思います
これはエリートアイスホッケー選手に対してのプロトコルなので、違うスポーツや違う競技レベル(アマチュア、学生など)、年齢層によってプロトコルは原則には則りつつ修正は必要なのかと思います
本日は以上となります
最後までお読みいただきましてありがとうございました
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