スポーツ中の脳振盪と輻輳眼球運動(寄り目)のチェック

文献など

アメリカ産アスレティックトレーナー(ATC)
スポーツ中の脳振盪に関して時々ブログ更新中。
脳振盪に関する情報やお悩み解決のお手伝いになれば嬉しいです。

Yoshihiko TKをフォローする

はじめに

※この記事は以前noteに掲載したものです

スポーツ中の脳震盪が起きると、その症状は様々なものがあります

その症状の中でいくつかを挙げると、

頭痛・めまい・吐き気・嘔吐・頭部の圧迫感・首の痛み・集中できない・光に敏感になる・音に敏感になる・うまくバランスが取れない・何かおかしい、などなど、、、

これ以外にも多くの症状があります

スポーツ現場では脳震盪を疑う症状があった場合、SCATという脳震盪評価ツールを使って選手の状態をチェックします(SCATとはSports Concussion Assessment Toolの略です。大人版、子供版、日本語訳されているのもあり、google検索すればすぐに出てきますし、誰でもダウンロードできます)

このSCATの他にもスポーツ現場で使われている脳震盪評価ツールはあるのですが、そのうちの一つがVOMSというものです

VOMSとは?

VOMSとはVestibular/Ocular Motor Screeningの略です(このURLからダウンロード出来ます

(追記:VOMSの日本語訳を作成しました。下記記事をご覧ください)

ざっくり言えば、Vestibularとはバランス能力を司る機能で、Ocularとは眼の能力です。ですのでこのVOMSは脳震盪疑いの選手の眼の動きや、頭を動かした時のバランス能力などに異常がないかをチェックするツールです

今回はこのVOMSのチェック項目の一つのConvergenceについての論文があったので、それをまとめたいと思います

Convergence(輻輳)とは?

Convergenceとは日本語で言うと輻輳(ふくそう)と言い、輻輳とは”寄り目”のことです

顔にかなり近い物を見ると寄り目になりますが、この寄り目になるには当たり前ですが両眼が鼻の方に近づきます。どんな眼の動きもそうなのですが、”物を見る為に眼を動かして焦点を合わせる”というのは非常に精確な作業が脳内で無意識下で行われており、脳震盪が起きている場合この精確な作業に狂いが出る場合があります。ですので、VOMSでは輻輳を含めて眼の動きをチェックします

余談ですが、眼と脳と分けて書いていますが、眼自体も脳の一部と考えており、それほど眼というのは高度な機能を持っています。ちなみに、発生学的には人間は3つの種類の細胞が分裂し、1つの細胞は中枢神経(脳と脊髄)と皮膚、1つは筋肉や靭帯、もう1つは内臓を形成します。ですので、広義でいえば皮膚も脳と一緒になります。確かに皮膚は外界の状態を常にチェックするセンサーの数も種類も多いでし、神経を通じて外界の状況を常に脳に伝えています(例えば温度や力など)

話を寄り目に戻しますが、今回まとめるのは以下の論文です

スポーツ中の脳振盪と輻輳眼球運動(寄り目)のチェック

スクリーンショット 2020-12-18 15.05.43

VOMSで寄り目の評価をする時、鼻の先からどれだけ近くになったら物が二重に見えるかをチェックします(こんな感じ↓)

スクリーンショット 2020-12-18 15.07.41

この女性は木の棒の先にある文字を見ていますが、これを顔に近づけていき二重になったところで止めて、その位置から鼻までの距離を計測します

国立スポーツ科学センターではVOMSのやり方を動画で紹介しています↓

VOMS

そしてこれをVOMSでは3回繰り返し、鼻からの距離が6cm以上あれば異常としています(この6cm以上であれば異常というのは、5cmなら異常という説もあるので絶対的数値としては私は考えてはなく、数値の他に眼の動きの質や症状の有無なども考慮しています)

研究内容

そして今回の論文の意図は非常に単純明快で、それは

「VOMSでは寄り目を3回テストするけど、1回テストすれば十分じゃね?」

というものです

実験内容としては380名の22歳以下の脳震盪受傷者(男女ほぼ同数、スポーツ中の脳震盪受傷者は74%)で、脳震盪受傷から30日以内に評価した被験者のみです

結論から言うと、脳震盪受傷者の場合は1回目の寄り目のチェックで3cm以下、もしくは7cm以上であれば、2回目3回目とチェックしても数値が大きく変わることは統計的にあまりないので、1回のテストで十分

逆に1回目のテストで3.1cmー6.9cmの間であれば、2回目のテストをする必要性も出てくるとしています

この結果から考えると、3cm以下もしくは7cm以上というのは明らかにおかしい、と言える数値なので2回目のテストもいらない、とも言えると思います

3cm以下の数値というのはあまり私自身はあまり見た事がないので、この結果だけではなんとも言えませんが

もちろん研究では数値だけでしたが、現場では数値の他に眼の動き方や症状の増悪なども見ますし、この寄り目だけで脳震盪疑い・脳震盪ではなさそうと判断することはありません

そして他の注意点は、これはアメリカ人を対象とした実験なので、骨格などが違う日本人であればその数値も変わってくると言うことです

ですので、数値だけを鵜呑みにせずに総合的にチェックするというのが大切になってきます

個人的にはこうゆう素朴な疑問を解決するために実験した様な研究はすごい好きです(わかりやすいから)

参照文献

1Ernst N, Schatz P, Trbovich AM, Emami K, Eagle SR, Mucha A, Collins MW, Kontos AP. Utility of 1 Measurement Versus Multiple Measurements of Near Point of Convergence After Concussion. J Athl Train. 2020 Aug 1;55(8):850-855. doi: 10.4085/1062-6050-431-19. PMID: 32577736; PMCID: PMC7462169.

2 ハイパフォーマンススポーツセンター 脳振盪(のうしんとう)の啓発コンテンツ

コメント

タイトルとURLをコピーしました