はじめに
こんにちわ、爪川です
脳振盪は脳の様々な機能に影響を与えますが、その1つに自律神経への影響があります
自律神経は脈拍や血圧の調整、体温や代謝、内臓機能のコントロールなど様々な役割があり、これらは意識しなくても自動的に調整が効く様になっています
例えば寝ている状態から急に立ち上がっても脳に十分な血流が送られる様に血圧が瞬間的に上がります
逆に立ち上がった時の血圧の瞬間的な上昇がうまくいかない時は「立ちくらみ」が起きる場合があります
このような寝ている状態から立った時に血圧の調整がうまくいかないことを「起立性低血圧」と言います
また身体のバランス能力を司る前庭機能も自律神経と非常に密接に関わっています
寝ている状態から立ち上がる際は、前庭機能によって身体の姿勢の変化を認識し、その姿勢の変化に合わせて自律神経が血圧の調整をするように機能します
ですので、もし脳振盪で自律神経や前庭の機能が低下している場合、起立性低血圧も起きやすくなっている場合が考えられます
そしてこの起立性低血圧がどの程度の割合で脳振盪受傷者に発生しているかを調べた研究がありましたので、それをを見ていきたいと思います
脳振盪と起立性低血圧
この研究では脳振盪の有無や症状の長さによって3つグループに分け、それぞれのグループで起立性低血圧の発生頻度や前庭機能などを調べています
1つ目の班は脳振盪を受傷していないグループ、2つ目は脳振盪を受傷したグループ、3つ目は脳振盪を受傷した被験者のうちで4ヶ月以上症状が長引いているグループです
全ての被験者は12-18歳の少年少女で、起立性低血圧などのチェックは全て脳振盪受傷から6日以内の検査結果です
脳振盪無し | 脳振盪あり | 脳振盪あり x 4ヶ月以上症状あり | |
人数 | 214 | 297 | 26 |
起立性低血圧 | 5.1% | 3.4% | 7.7% |
起立性低血圧と定義されるには血圧が一定以上低下している必要がありますが、上記の表の様に今回の研究結果では起立性低血圧と診断される頻度と脳振盪の受傷とにはそこまで関係がなさそうに見えます
脳振盪無し | 脳振盪あり | 脳振盪あり x 4ヶ月以上症状あり | |
人数 | 214 | 297 | 26 |
起立性低血圧 | 5.1% | 3.4% | 7.7% |
立ち上がった時のめまいの症状 | 4.2% | 36.7% | 34.6% |
ただし、脳振盪を受傷した被験者は起立性低血圧のチェックの時に立ち上がった際、めまいを感じる方が脳振盪なしの被験者よりも非常に多いという結果が出ました
これはつまり、起立性低血圧ほどの血圧の変化は確認出来ないものの、寝た状態から起き上がることでめまいの症状が発生することを意味しています
めまいは様々な原因で発生しますが、立ち上がった際のめまいは血圧の調整がうまくいっていないことも原因として考えれ、上記の結果と合わせると起立性低血圧と診断される程の血圧の変化はないものの、何かしら血圧調整機能に不具合が起きる場合が多いことも考えられます
また、この研究では起立性低血圧の有無の他にも、タンデム歩行という歩行動作や前庭動眼反射(水平方向のみ)というバランス機能や前庭と目の協調機能も合わせてチェックしています
脳振盪無し | 脳振盪あり | 脳振盪あり x 4ヶ月以上症状あり | |
人数 | 214 | 297 | 26 |
起立性低血圧 | 5.1% | 3.4% | 7.7% |
立ち上がった時のめまいの症状 | 4.2% | 36.7% | 34.6% |
タンデム歩行 異常 | 19.2% | 38.7% | 53.8% |
前庭動眼反射 異常 | 7.9% | 33.3% | 53.8% |
上記の表の様に脳振盪受傷者ではこれらのチェックでも多くの被験者が異常な状態を表していました
考察
この研究結果から推測すると、脳振盪受傷後の少年少女では全体の30-40%で身体の姿勢の変化とそれに伴う血圧の調整がうまくいかなくなっている可能性があると言えます
またその様な子供では前庭機能やそれと協調して働く機能の低下も同時に起こっている可能性もあります
脳振盪からの競技復帰を目指す際には運動を伴うリハビリを行う必要がありますので、血圧や血流量のコントロールは非常に重要です
逆に血圧や血流量の調整機能が低下している状態で心拍数を上げるリハビリを行うと、症状の悪化を招くことも考えられます
それゆえ脳振盪から競技復帰を目指す際に、有酸素運動で心拍数を上げる前に起立性低血圧やそれに伴うめまいなどがないかを確認することも検討する必要があるかと思います
ただ、この研究結果にもあるように脳振盪を受傷していないグループでも起立性低血圧や立ち上がった時にめまいは発生しているので、その有無だけでリハビリの進行具合を判断することも難しいかと思います
ですので多くの要素を見ていく必要がありますが、有酸素運動の前に血圧の調整機能(vasomotor activityやvestibulo-autonomic system)が適切に機能しているかをチェックすることに損はないかと思います
本日も最後までお読みいただきましてありがとうございました
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