はじめに
スポーツ中に脳振盪を受傷した場合、スポーツ復帰をする為には適切な診断とリハビリが必要です
70-80%の脳振盪受傷者は成人であれば約2週間、子供は約4週間でスポーツ復帰を果たすことが出来ます
ただ、残りの20-30%は脳振盪後の症状が上記の期間以上に長引き、その期間が数年間にも及んでいる選手もいます
その様に症状を長引かせない為にも、適切な診断とリハビリが必要です
そして脳振盪後のリハビリは研究が盛んに行われている分野の1つです
研究が進むにつれて今まで適切と思われていたリハビリが、実はそうでもないのではないかと考えられる時もあります
その1つが脳振盪受傷から数日後から開始する低強度の有酸素運動です
以前は、脳振盪が起きたら安静時の症状がなくなるまで運動はすべきでないと考えられてきました
ですが、最近では症状が悪化しない程度の有酸素運動はすべきでないかという考えが広まってきています
その理由の1つが脳振盪受傷者は脳への血流が低下しているという研究結果があることです
軽い有酸素運動は全身の血流を促進しますがその効果は脳への血流にも及び、それゆえ脳血流の低下への改善策として軽い有酸素運動が考えられています
では、どの程度の有酸素運動をすればいいのでしょうか?
その「どの程度」というの決める為のテストがバッファローコンカッショントレッドミルテスト(BCTT: Buffalo Concussion Treadmill Test)とバッファローコンカッションバイクテスト(BCBT:Buffalo Concussion Bike Test)です
Buffalo Concussion Treadmill Test(BCTT)とBuffalo Concussion Bike Test(BCBT)
BCTT(バッファローコンカッショントレッドミルテスト)とはランニングマシンを用いて脳振盪受傷者がどの心拍数まで脳振盪の症状が悪化せずにランニングが行えるかをチェックするテストです
例えば脳振盪受傷者がランニングマシン上で走って心拍数が140で脳振盪の症状が悪化すれば、その患者のその時の最大で運動できる心拍数は140となります
通常ではこの脳振盪の症状が悪化した心拍数の80%で有酸素運動を行います
ですので、この例の場合であれば140 x 80% = 112となります
バッファローコンカッショントレッドミルテストの詳細はこちら!
また、バッファローコンカッションバイクテスト(BCBT: Buffalo Concussion Bike Test)というテストもどの程度の有酸素運動を行えばいいかを決めるテストです
やり方はBCTTと基本的に同じで、エアロバイクを使用して少しずつ負荷を上げて心拍数を上げていき、症状が悪化する心拍数までエアロバイクを漕ぎます
エアロバイクの場合はランニングマシンと違って座って行うことができるので、めまいなどがある受傷者にも実施しやすいかと思います
BCTTとBCBTの関係
BCTTはランニングマシンを使い、BCBTはエアロバイクを使用して脳振盪受傷者がどの程度の心拍数になると脳振盪の症状が悪化するかをチェックします
ですが、この2つのテストを行った場合、脳振盪の症状が悪化する心拍数が異なるのではないか?
BCTTとBCBTに何かしらの関係はあるのか?
それを調査したのが以下の研究です
結果だけお伝えすると、BCTTもBCBTも脳振盪受傷者は同じ様な心拍数で症状が悪化し、BCTTで症状が悪化した患者はBCBTでも悪化したとの結果が出ました
ですので、BCTTとBCBTで症状が悪化する心拍数が異なるということはなかったとなります
この研究ではBCTTでは心拍数が137±28、BCBTでは135±25で症状が悪化しました
ですので、脳振盪受傷者がどの程度の心拍数の上昇までなら耐性があるかをチェックする方法としては、他の要素を省くとBCTTもBCBTも大きく変わらない可能性を示唆しています
※注意:この研究の被験者は未成年で被験者数も20人なので、この結果を一般化出来るわけではありません。またBCTTは脳振盪受傷から10日以内に実施、BCBTはBCTT実施後3日以内に実施しています。
考察:段階的競技復帰時の軽い有酸素運動
脳振盪からスポーツ復帰をするには段階的復帰プロトコルという指針にそって運動や練習などを行なっていく必要があります
この段階的復帰プロトコルは6つのステージから成り立っており、ステージ6をパスすれば通常通りに試合に復帰できます
脳振盪受傷後はステージ1からリハビリを開始し、ステージ2で軽い有酸素運動を行います
この軽い有酸素運動、以前は心拍数は110未満で行う、または120未満で行うなどの指針がありましたが、今はありません
ただ、先ほどの研究結果を見ると心拍数が130-140程度で脳振盪の症状が悪化する可能性が高そうです(もちろん、先ほどの研究をそのまま当てはめられるわけではありませんので参考までですが)
であればBCTTやBCBTが実施出来る環境にない場合は、ステージ2の軽い有酸素運動の際に心拍数のターゲットを130-140程度に設定し、そこで症状の悪化が起きればそれよりも低い心拍数で有酸素運動をリハビリとして行い、症状の悪化が起きなければステージ3に進みつつ、より高い心拍数に耐性があるかを確認するということも考えられそうです
もちろん心拍数のターゲットを130-140の80%程度の設定したり、初日は110、次の日は120、3日目で130まで上げる、という風にいろんな工夫はできると思います
まとめ
スポーツで受傷した脳振盪へのリハビリの考え方もどんどん進化してきています
今は有酸素運動を早期から開始する考え方も広まっています
どの程度の強度の有酸素運動を行えばいいかを決めるのがBCTTとBCBT
そしてその間に関係性があるのかを調べた論文もご紹介しました
論文内の結果では脳振盪受傷後概ね2週間以内では130-140程度の心拍数で脳振盪の症状が悪化していることから、BCTTやBCBTを実施出来る環境がなければその辺りの心拍数をリハビリのターゲットやテストとして使用することも可能かと思います
本日は以上となります
最後までお読みいただきましてありがとうございました
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