※この記事は以前noteに掲載したものです
今回はスポーツ中の脳震盪と画像検査についてまとめようと思います
脳震盪とは脳の機能障害の事ですが、脳の障害(正確には頭部外傷)の中では軽度に分類されます。脳震盪が起きても脳内の出血が画像検査(CTやMRI)で確認されることは基本的にはありません。(もちろんCTやMRIで発見できないほどの小さな出血がある場合もありますので、正確には脳内に出血がないというよりも、画像検査で確認できるほどの大きさの出血がないという意味になります)。もし出血が確認されればそれは脳震盪という診断ではなく、違う診断名となります(例えば脳挫傷とか)
ただ、脳震盪は脳の障害の中で軽度だからといって症状が軽いわけではありません。大人の場合は2週間ほどで多くの方が症状がなくなりますが、子供や青少年の場合は1ヶ月ほどかかります。しかし、正しい診断や治療・リハビリが受けられないと数ヶ月、または数年にも脳震盪の症状が長引く場合もあります。それゆえに受傷当初から適切な診断と治療を受けるというのは重要になってきます
その診断という意味では、他の怪我では画像検査で怪我の状態が分かるのですが、上記の通りに脳震盪ではそうはいきませんでした。ただここ10年程の研究で、MRIの撮影方法のひとつであるDiffusion Tensor Imaging(DTI)という方法の有効性が明かされてきました
脳震盪に関しての研究は世界中で、特にアメリカで、盛んに行われていますが、脳震盪は脳の神経細胞のAxonという部分により影響を与えることが考えられています。Axonという部分は神経細胞の一部分で、他の神経細胞に信号を送る電線のような役割があります(かなり単純な比喩ではありますが)。脳をMRIで見ると黒い部分と白い部分に分けられ、黒い部分を灰白質、白い部分を白質といいますが、Axonはこの白質の部分になります。そして先ほどのDTIはこの白質の状態を映し出すのにより有効な手段です。
そしてそれらに関する論文で面白かったのがこれです↓
これは複数の大学の強豪アメリカンフットボール部の選手を対象とした研究で、30名の脳震盪受傷者を受傷から24−48時間以内にDTIで検査し、その結果を28名の他のコンタクトスポーツを行う選手の脳画像と比較したものです。研究ではDTI画像だけでなく、頭痛や吐き気、バランス感覚の低下などの脳震盪後の症状のチェックも行われています
結果は大きく分けて2つの発見があります
1つ目の発見
DTI検査では4つの指標のようなものがありますが、そのうちの1つのMD(Mean Diffusivity)というのが、脳震盪受傷者と非受傷者で違いが見られました(統計学的に有意な違いです)
MDでの違いがあったのは以下の場所です:
左の脳: 脳梁(のうりょう)の膨大部、後方放線冠(こうほうほうせんかん)、上縦束(じょうじょうそく)
右の脳: 脳梁の体部、前方と後方放線冠
と、まあ脳内の部分は難しいのでDTIで検査したら、「脳震盪受傷者の脳には健常者と比較して違いがありました」というのが1つめの発見です
2つ目の発見
先ほどのDTIの指標のうちのMDとAD (Axial Diffusivity)という項目と、脳震盪の症状具合を比較すると、この2つの指標はどちらも共に脳震盪の症状と直線的な関係があることがわかりました
直線的な関係とは、「症状が上がる(強くなる)とMDもADの指標も上がる」という意味です(かなりシンプルな見方ですが)
基本的に脳震盪受傷後の初期の症状が強いと、その症状が長引く傾向があるので、このMDやADでの指標が受傷後すぐに高いのであれば、症状も長引く可能性があります
まとめ
以上のように、以前は脳震盪は画像検査では異常が見られない脳の障害でしたが、近年はそうではなくなってきています。ただ、まだ研究段階なので、先ほどの論文の著者も「次は100名以上の被験者を対象とした大きな研究が必要」といっています
ただ、このように画像で脳震盪の具合がわかるようになると、脳震盪を受傷した時に
「どの程度の重症度か」
「復帰までにどれくらいかかるのか」
「症状は無くなったけど、画像的にはもうスポーツや社会生活に復帰してもいいのか」
などの今は決断するのに難しい問題の手助けになるのではないかと思います
参照文献
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