※この記事は以前noteに掲載したものです
こんちにわ、爪川です
今回もスポーツ中の脳震盪関連の文献についてまとめたいと思います
今回の文献はこちら
ハワイ大学で行われた高校生を対象とした研究です
高校生がスポーツ中の脳震盪を受傷してからどのくらいで通常の学校生活に戻ることが出来、そしてどのくらいでスポーツに復帰出来たかをまとめており、読んだその時から知識として現場で使える非常に有益な内容になっています
前提として脳震盪が起きた場合、学生であれば段階的なステップを踏んで学業に復帰し、学校生活が滞りなく過ごせたならスポーツ(部活)への段階的な復帰を行っていきます
学校への復帰過程をReturn to School、スポーツ(部活)への復帰過程をReturn to Playと言います
Return to Playは通常であれば6つの段階を含んでいますが、今回の研究ではReturn to Playの段階の中にReturn to Schoolを含めた7段階で、脳震盪からスポーツへの復帰を段階的に進めています
以下がその7段階となります
1 安静
2 学業への制限なしでの復帰(体育以外の授業)
3 低強度の有酸素運動
4 スポーツ特有のスキルトレーニング(ダッシュや1人で行うスキル練習:例 バスケのシュート練習など)
5 ノンコンタクトトレーニングへの復帰(人や物との接触がない練習への復帰)
6 コンタクトトレーニングへの復帰(人や物との接触がある練習への復帰)
7 試合への復帰
1の安静では身体的・認知的安静が必要となります。身体的安静とは家でゆっくり過ごすことなど想像しやすいですが、認知的安静という事も必要となります。認知的安静とは脳を休ませるということで、脳を使う様なこと(例えばスマホやTVをみたり、ゲームをしたり読書をしたり)も控える必要があります
2の学業への制限なしでの復帰とは、通常の学校生活を送っても脳震盪の症状が再発することがないことを言います(体育の授業以外)。アメリカでは一般的になってきましたが、脳震盪を受傷した学生は脳を休ませるために学業にも制限をかけます。この制限とは、たとえば宿題をなくしたり、テストを延期したり小部屋で1人で受けさせたりします。このようにして脳震盪を受傷してから学校生活に戻るまでも段階的に復帰していきます
3の低強度の有酸素運動ではスピンバイクなどで心拍数を上げます
4のスポーツ特有のスキルトレーニングでは、復帰するスポーツに特有のスキル練習を1人で行ったり、1人でのランニングなどを行います
5のノンコンタクトトレーニングへの復帰では、人や物との接触がない練習に復帰します。サッカーであればゴールキーパーとの1対1でのシュート練習には参加しますが、ディフェンスも含めた練習には人と接触するので参加しません
6のコンタクトレーニングへの復帰では、基本的に全ての練習に復帰します
7の段階で試合へ復帰していきます
今回の研究では男子454名、女子272名の高校生を対象として、脳震盪を受傷してから何日で全ての段階を踏んでスポーツに復帰したのか、一つの段階に何日必要だったかをまとめています(因みにアメリカの高校は4年制なので、日本でいう中学校3年生がアメリカの高校1年生です)
この研究では6段回目が終わるまでの日数を数えています(7段回目の試合への復帰はそもそも試合がなければ復帰出来ないので、6段回目までに要した日数で数えています)
結果
上記の表が男女別にまとめたものとなります(Return-to-Play Stepsの0-1というのは、0が脳震盪を受傷した日を意味します)
脳震盪を受傷してから6段回目のフルコンタクトトレーニングに参加し、脳震盪の症状の再発などなく無事に終えられるまでにかかった日数は、
男子では平均19.3日±12.7日
女子では平均21.6日±15.5日
脳震盪を受傷してから通常の学校生活を過ごし、低強度の有酸素運動をスタートするまでの日数は、
男子では平均13.0日±10.0日
女子では平均14.7日±11.4日
この数字から高校生では男女共に脳震盪を受傷してから約2週間は運動は行っておらず、学業への復帰に時間をかけているとわかります
スポーツへの完全復帰には学業復帰を果たしてから男女共に約1週間かけて戻っています
次は年齢別にまとめた表です↓
この表を見ると14-16歳では6段回目のフルコンタクトトレーニングが終わるまでに約21日かかっています
ですが、17歳になると約17日と14-16歳と比較してより早く復帰しています
学業復帰でもこの差はみられ、14-16歳では平均14-15日、17歳では平均11日となっています
まとめ
以前から脳震盪は年齢が若く、女性の方が復帰までに日数がかかるとの研究結果が出ていましたが、今回大規模な高校生を対象とした研究でも男子よりも女子の方が復帰日数が長くなり、さらに17歳未満の高校生も復帰日数がより必要になっていました
今回の研究結果自体も非常に有益なのですが、勉強にしたいのはこの研究対象だった高校生は学業復帰までに約2週間かけており、学業にもしっかりと段階的に復帰しているという点です
脳震盪を受傷した選手はすぐにスポーツに復帰したがるのですが、高校生というまだ脳も身体も発達途中の中ではすぐに運動は再開せずに、まずは学校生活を問題なく送れるようにするということが重要だと考えられます
参照文献
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