はじめに
こんにちわ、爪川です
スポーツ中の脳振盪はどの競技でも起こり得ますが、サッカーのように相手と接触(コンタクト)があるスポーツでは脳振盪が発生する確率が高まります
以前のブログ記事にしてまとめましたが、ハワイの高校生を対象とした研究ではサッカー(特に女子サッカー)はより直接的に頭部に衝撃が加わりそうな柔道よりも脳振盪発生リスクが高いとされています
その記事はこちら↓
脳振盪は長期的な症状が残る可能性もありますし、スポーツが出来ない状態になる可能性もあるケガです
それゆえに脳振盪発生リスクを減らす為の試みや研究は多く実施されています
その研究の一つとして今回はアメリカのサッカーを行う高校生約2800名を対象とした、ヘッドギアを装着することで脳振盪の発生を軽減出来るか調べた研究をご紹介します
ヘッドギア装着でサッカー中の脳振盪は減るのか?
研究方法
この研究はアメリカのウィスコンシン州のサッカーを行なっている高校生2766名(女子67%)を対象とした研究です
研究期間は2年間(ただしアメリカの高校の部活動はシーズン制なので、基本的には女子サッカーは8-11月、男子サッカーは3-6月のみの活動となります)
またアメリカの高校は4年制なので、日本で言うと中学校3年生から高校3年生を対象とした研究となります
この高校生をランダムにサッカーの練習と試合中にヘッドギアを付けるグループ、ヘッドギアを付けないグループに分けます
これら2つのグループを2シーズンにかけて追跡し、サッカー中の脳振盪の発生件数を比較しました
結果
結果だけ先にお伝えすると、
ヘッドギアを装着したグループとヘッドギアを装着しなかったグループでの脳振盪の発生率に統計的な違いはありませんでした
それゆえ、アメリカの高校生を対象としたこの研究では、ヘッドギアの装着でサッカー中の脳振盪の発生リスクを低減することは難しいと示唆しています
この表が今回のデータをまとめた図です
赤い丸で囲まれた数字は今回の研究の脳振盪の発生率です
上の数字(4.4%)がヘッドギアを装着しなかったグループで脳振盪になった生徒の割合
下の数字(4.1%)がヘッドギアを装着したグループで脳振盪になった生徒の割合です
ヘッドギアを装着しなかったグループの方が0.3%脳振盪になった割合が高いですが、統計学的にはこの差はヘッドギアの脳振盪予防効果を示すほど高い数字とは言えません
また青い四角に囲まれている数字は男女別の脳振盪になった生徒の割合です
上の四角は男子生徒の数字で、1.5%がヘッドギアを装着しなかったグループ、3.0%がヘッドギアを装着したグループの数値です
下の四角が女子生徒の数字で、6.0%がヘッドギアを装着しなかったグループ、4.7%がヘッドギアを装着したグループの数値です
注意
この研究ではサッカー中のヘッドギア装着が脳振盪発生リスクの低下に繋がりにくいことが結果として判明しました
ただし、ヘッドギアの装着は頭部の切り傷やすりきず、打撲や頭部骨折のリスクを減らす可能性はあります
それゆえこの結果だけを見て「サッカーにヘッドギアは必要ない」という結論になるわけではありません
現にアメリカンフットボールではヘルメットを装着して競技を行いますが、このヘルメットは脳振盪予防にはつながらないものの、上記の打撲や頭部骨折には効果があるとされています
その他の重要情報
この研究ではヘッドギアの装着がサッカー中の脳振盪発生リスクを低下させるわけではなさそうであることがわかりました
ただし、このような大規模な研究によって判明した他の重要な情報もこの論文には掲載されていたので、それをここでご紹介したいと思います
男女差
上記にも書きましたが、男女別にみると脳振盪の発生率は男子より女子の方が圧倒的に高くなります
ヘッドギアを装着しなかったグループ内では、女子は男子よりも4倍高い確率で脳振盪が発生しており、ヘッドギアを装着したグループ内では約1.5倍その確率が高くなっています
これは男子よりも女子の方が脳振盪になりやすいとする他の研究結果とも合致しています
脳振盪発生原因
この研究では脳振盪の発生原因についてもまとめています
全ての脳振盪の中で他の選手との接触が原因のものが半数以上を占めています(55.4%)
次に多い原因がボールとの接触で35.4%
この2つがサッカー中の脳振盪の発生原因の9割以上を占めています
プレイ内容
どのようなプレイで脳振盪に至ったかをまとめた資料によると、この研究では守備時(26.2%)、ルーズボールを追いかけた時(13.1%)、キーパーのセービング時(13.1%)、接触を伴うヘディングをした時(10.0%)というような数値が出ています
試合中の反則
脳振盪が起きたプレイで反則の笛(ファウル)が吹かれたかを示す資料では、脳振盪に至ったプレイの中で77.7%がファウルは吹かれなかったとされています
適切なプレイで脳振盪が起きてしまう場合もありますが、無謀なプレイや悪質なプレイによっても脳振盪に繋がる時もあります
そのようなプレイに対して厳格にファウルをとっていくことは脳振盪予防に役立つ可能性があります
実際にラグビーでは無謀もしくは悪質なプレイへの罰則を厳格化したことにより、脳振盪の発生数が減少したとの報告もあります↓
ポジション
ポジション別の脳振盪発生率を見ると、以下のようになります
- ミッドフィルダー 37.7%
- ディフェンダー 28.5%
- フォワード 19.2%
- ゴールキーパー 14.6%
試合 vs 練習
脳振盪の発生率を比較すると、試合時の方が圧倒的に脳振盪は発生しやすいです
この資料でも全体の脳振盪の約80%が試合中に起きています
まとめ
脳振盪の予防策は多くのスポーツ団体や研究機関が行なっています
今回のような防具(ヘッドギア)に関しての研究も盛んに行われていますが、他の研究結果でも言われていますが、防具の装着で脳振盪の発生リスクを減らすのは難しいされています
今回の研究結果もそれに準ずるような結果となりました
ただ、この研究では他の重要な数値もわかっており、今後はそれらに対して「何か対策が可能なのでは?」という研究が行われいくのではないかと思います(例えばルールの厳格化など)
本日も最後までお読みいただきましてありがとうございました
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