こんにちわ、爪川です
今回は“Concussion in the UK:a contemporary narrative review”という論文で紹介されている、脳振盪の病態生理学について見ていこうと思います
”病態生理学(びようたいせいりがく、英: Pathophysiology)は、人体の正常な機能が異常をきたしたり、調節機能が破綻した病気の身体機能の状態と破綻をきたす原因を解き明かす学問である”(参照資料1)
脳振盪の病態生理学
この論文では脳振盪の病態生理学について4つの項目を紹介しています
神経代謝カスケード
イオン変動と神経伝達物質の放出
- 剪断性や伸長性の力によって細胞内カリウムの流出が始まり、それによって脱分極が拡散する
- このような外傷によって細胞膜の構造や機能に異常を来たす反応は「mechanoporation」と呼ばれ、拡散脱分極を起こして脳振盪の急性症状に繋がる
- グルタミン酸の活動が制御されずにGABA介在神経細胞活動の機能障害が起き、それによってフィードバックループが誇張された過剰興奮性と脱分極が起きる
- 動物実験ではこの状態は数時間で解消されるが、人間の場合はグルタミン酸:GABA比率の異常は脳振盪後の数日から数週間見られた
代謝要求
- 細胞内ナトリウムとカルシウムの上昇は細胞損傷とミトコンドリア機能不全を引き起こし、それは代謝アンバランスに繋がる
- 非効率的な代謝は嫌気性エネルギー産生と乳酸の蓄積を促進し、ミクロ環境を酸性化する
- この現象は脳血流の低下と脆弱な酸化分解によってさらに悪化し、その間にはブドウ糖の代謝低下によっていつ終わるか予想が出来ない期間で脳は脆弱な状態に陥る
脳血流と血管系
脳灌流
- 重度の頭部外傷で起こる「低灌流、充血、血管けいれん」の反応は軽度頭部外傷でも起きると推測され、脳血流の変化はさまざまな場所や量、タイミングで起こり、症状が解消した後も続くことが予想される
血液脳関門の機能障害
- 頭部外傷後の数時間から数日、細胞間結合タンパク質の発現は減少し血管透過性の上昇に繋がる
- 内皮細胞カベオラ数の上昇は血漿タンパク質のトランスサイトーシス増加につながり、血液脳関門の障害と脳浮腫に繋がる
- 頭部への繰り返しの衝撃を受けているアスリートでは血液脳関門の障害がMRIによって示されており、脳振盪後症候群(postconcussion syndrome)と診断された患者の73%に血液脳関門の透過性が見られている
- 血液脳関門の障害を示す検査数値は神経認知機能及びバランス機能の低スコアとの相関関係が示されており、血液脳関門の障害が症状に繋がることも示唆される
神経炎症
- 脳振盪によって反応する神経炎症にはメリットとデメリットがある
- 神経炎症はグリア細胞の活発化によって起こり、炎症性サイトカインの放出と抹消の白血球のリクルートメントが発生する
- ミクログリア細胞は抗炎症物質も炎症誘発物質も産出する
- 血液脳関門の機能障害が起きている場合、神経炎症や脳血管機能低下を引き起こすような免疫細胞や血漿タンパク質はより多く脳に漏れ出す
- 長期の神経炎症は年単位で続き、症状の強さや期間と関係すると推定されている
- ミクログリア細胞の持続的な活性化は頭部外傷から17年後でも見つかっており、病態や予後の悪化と強い相関がある
構造変化
軸索、神経組閣損傷
- 標準的な画像検査では脳振盪後に器質的損傷を見つけることは出来ないが、ミクロな器質損傷が脳振盪の病態生理学に関わっていると考えられている
- 拡散テンソル画像では脳の複数の箇所、多くの場合は脳梁、が影響を受けていると特定している
- 白質の障害を示す多くの検査数値と認知・神経行動機能低下との相関が示唆されている
- ニューロフィラメントと微小管の歪みは外傷自体でも起こり、また二次的に軸索内のカルシウムイオン濃度の向上によっても起こる
- これによって軸索輸送が妨げられ、βアミロイド前駆体の蓄積、そして軸索浮腫に繋がる
神経死
- 動物実験では軽度頭部外傷後に海馬や視床といった部分に細胞死が見られ、認知機能の低下に繋がっている
- 人間の場合は1回の軽度頭部外傷後に大脳辺縁系と楔前部に体積低下や萎縮が見られた
- この低下は1年後の検査で消失していたが神経心理学テストでの低スコアと相関があった
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