はじめに
脳振盪を受傷した後、どの程度の期間で症状が回復してスポーツ復帰が可能になるでしょうか?
今までの統計から見ると大人であれば2週間以内、子供であれば4週間以内に多くの脳振盪受傷者がスポーツ復帰を果たしています
ただ、その期間内にスポーツ復帰が果たせずに脳振盪の症状が長引く選手も多くいます
実は脳振盪はどの程度の期間で日常生活やスポーツを行えるようになるかを予測するのが非常に難しい外傷です
通常、脳振盪を受傷すると段階的復帰プロトコル(GRTP)という手順を踏んでスポーツ復帰(もしくは学業への復帰)を目指しますが、最初はその手順通りにすんなり回復をみせていたものの、途中から症状の回復が芳しくない選手や、最初からなかなか日常生活での症状が改善しきれない選手もいます
このように脳振盪は「どの程度の時間がリカバリーに必要か」ということが個人個人で全く異なり、現状では正確には判別しにくい状態です
ですが脳振盪の研究も世界中で行われており、どのような要素が脳振盪の症状を長引かせるかということも少しずつわかってきています
今回の記事ではそのことに関してスタンフォード大学のチームが行った研究を見ていきたいと思います
※この研究は閲覧権がないので「要約」の部分しか読めておらず、その部分からのみの情報になります
脳振盪の症脳振盪の症状を長引かせる要素とは?大学生対象の研究より
概要
・2017年9月から2020年8月までのアメリカNCAA D-1に所属する1つの大学で起きた全ての脳振盪を調査(NCAAとはアメリカの大学体育連盟のよう組織で、D-1(Division-1)とはその連盟の最上位の競技レベル)
・脳振盪を受傷する前からわかっている要素(Preinjury factors)と脳振盪受傷後に発生する要素(Postinjury factors)に分けて、それらがどの程度症状が長引くことに関わるかを調査
・Preinjury factorsは以下:年齢、性別、参加しているスポーツ、脳振盪の既往歴、その他の既往歴
・Postinjury factorsは以下:初期と再評価時のSCAT5の点数、Vestibular Ocular Motor Screeningの結果
結果
▶️上記の期間内で159人の大学生アスリートが187回の脳振盪を受傷
▶️Preinjury factorsで症状が長引くことに相関があったのは以下
・脳振盪の既往歴(p=.015)
・偏頭痛の既往歴(p=.013)
・個人スポーツに参加している(p=.009)
▶️Postinjury factorsで症状が長引くことに相関があったのは以下
・脳振盪の症状の総数(p=.020)
・脳振盪の症状の強さ(p=.023)
・Vestibular Ocular Motor Screeningでの異常(p=.002)
▶️脳振盪の症状の種類で以下の6つがスポーツ復帰までの期間が長引くことと有意な相関があった
①ふらつく/バランスの問題 (balance problems)
②集中しにくい (difficulty concentrating)
③光に過敏になる (light sensitivity)
④眠くなる/眠気が強い (drowsiness)
⑤疲れる/やる気が出ない (fatigue/low energy)
⑥覚えられない (difficulty remembering)
▶️脳振盪の症状と強さに関しては、それらの数が多ければ多いほど、また強ければ強いほど症状が長引くことと相関していた
▶️スポーツ復帰までに要する期間が長くなる事に関して最も信頼のおける要素は「脳振盪の既往歴があること」だった(脳振盪の既往歴があればスポーツ復帰までには期間が長くなる可能性が高い)
▶️個人スポーツに参加していることが回復に要する期間に関して最も大きな影響を及ぼす
終わりに
「脳振盪受傷後はいつ頃にスポーツに復帰可能か」
この質問に正確に答えるのは非常に難しいですが、今回のような研究のおかげで少なくとも脳振盪の既往歴があったり、上記のような症状が出ている場合は復帰には時間がかかる(もしくは復帰には時間をかけた方が良い)ということが考えられます
もちろん、この研究だけで何かを決められるわけではありませんが、このような情報を頭に入れておくと現場での脳振盪の対応時などに役立つときがあるかもしれません
本日も最後までお読みいただきましてありがとうございました
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