目やバランス感覚のチェックとスポーツ復帰までの期間の関係

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※この記事は以前noteに投稿したものです

ポーツ中の脳震盪では様々な症状が出ます

例えば頭痛、めまい、吐き気、バランス障害、空間認知力の低下、etc、、、

その中で目やバランスを司る機能(”前庭:ぜんてい”と言います)の低下もよくみられる症状です

目の機能の低下では素早く動くものを目で追うと気持ち悪くなったり、一点を注視して見れないなどが起きます(もちろんこれ以外の症状もあります)

前庭機能の低下では地面に立っているのにふわふわする、歩くと転げそうになる、バランスが保てないなどがあります

スポーツ中の脳震盪が起きた場合はSCAT5という脳震盪評価ツールを用いて現在の症状をチェックする場合がほとんどです

ですが、このSCAT5では目や前庭の機能が十分に評価できない場合があります(下の写真がSCAT5です:英語版)

画像1

ですので、最近ではSCAT5に加えて目や前庭機能をチェックするVOMSという評価ツールも使用される場合が多いです(下の写真がVOMSです)

画像2

※注意:SCAT5というのは全世界の脳震盪研究者達によって作成された全世界共通の脳震盪ツールですが、このVOMSはそういった類のものではないのであくまで補助的なものと考えてください

このVOMSでは以下の7つの項目で目や前庭の機能をチェックします

1 パスート
2 水平サッケード
3 垂直サッケード
4 輻輳近点
5 水平VOR
6 垂直VOR
7 Visual Motion Sensitivity test

今回ご紹介する文献では、スポーツ中の脳震盪を受傷した167名の患者(年齢:11-19歳)を対象として、VOMSのスコアの有無が脳震盪からのリカバリー期間にどのような関係があったかを調べています(ただし、文献内ではvisual motion sensitivity testは行わずに、代わりに瞳孔の調節機能をチェックしています)

スクリーンショット 2021-03-14 19.37.42

ただ注意が必要なのが、文献内で脳震盪からのリカバリーの日数の数字は実際にスポーツ復帰までに必要だった日数とは違う点です

脳震盪を受傷した場合、スポーツ復帰するには段階的復帰プロトコルを行う必要がありますが、この文献内での脳震盪からのリカバリーの日数はこの段階的復帰プロトコルを始める事が出来た日で計算しています

ですので、受傷日が3/14だとして安静時の症状などが無くなり、他の検査でも問題がなくなった日が3/28だとしたら、この文献内ではリカバリーにかかった日数は14日間という計算です

ただし、現実のスポーツ現場では安静時の症状がなく他にも問題がなければ、段階的復帰プロトコルを行ってスポーツに復帰していきます

この段階的復帰プロトコルは年齢にもよりますが、高校生ぐらいの年齢であれば少なくとも2週間ほどは時間をかけて行いたいので、現実世界では3/14に受傷し3/28から段階的復帰プロトコルを開始、そこから2週間かけて4/11に復帰するぐらいの時間がかかってきます(あくまで目安ですが)

話を文献に戻します

文献内の研究はシンプルにまとめると以下のとおりです

①2週間以内にスポーツ中で脳震盪を受傷した167名が対象(11-20歳、男:98、女: 69)

②初診時に7項目のVOMSを行い、脳震盪症状が悪化するかどうかをチェック

③VOMSで症状が増悪した患者とそうでなかった患者のリカバリー期間を比較

そしてその結果は以下のとおりです

リカバリー期間(脳震盪受傷してから段階的競技復帰を開始するまでの日数)

VOMSで症状悪化無し:13.4±8.2日
VOMSで症状悪化有り:23.0±13.4日

※”VOMSで症状悪化有り”は7項目の中で1つでも症状が悪化すれば含みます

VOMSでの項目別症状悪化数(カッコ内は全体からの比率)

1 パスート:61 (36.8%)
2 水平サッケード: 81 (48.5%)
3 垂直サッケード: 89 (53.6%)
4 輻輳近点: 28 (16.8%)
5 水平VOR: 65 (40.0%)
6 垂直VOR: 73 (45.3%)
7 瞳孔調節: 39 (23.4%)

性別でのリカバリー期間

男:16.9±9.0日
女:24.1±15.9日

以上のような結果が出てきました

さらに著者たちはこの結果に統計的な処理を行ったところ、VOMSの輻輳近点と瞳孔調節以外の5項目とリカバリー期間の間には相関関係があったと結論部分で述べています

まとめ

脳震盪は非常に難しい怪我で、その理由の1つはどの程度の期間で治るのかがはっきりとは分からない点です

多くの成人では2週間、子供では4週間程度というのはわかっていますが、それは統計的に見た数字であり、目の前の患者さんの現状からどの程度の期間がかかるという判断をするのは難しい面が多いです

今回の文献ではVOMSで症状が悪化すれば、そうでない場合と比較してリカバリーに時間がかかるという内容でした

これは脳震盪からのリカバリー期間を推測する1つの目安として有効なものになり得ると考えています

現に私もVOMSは行いますが、目やバランス機能の低下がある場合では脳震盪からの復帰期間が長引く印象を持っています

脳震盪の患者をチェックする場面がある方は、一度VOMSなどを使って目やバランス機能をチェックするのもいいと思います

本日も最後までお読みいただきましてありがとうございました

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